『幸福の朝』

 

 窓から降り注ぐ日光を浴びて、私は目を覚ました。

 体を包んでいた毛布を脇に寄せ、四肢を伸ばして眠気を吹き飛ばす。

 すると、突き出した足の下で小さなうめき声がした。

 声の方へ眼をやる。

 そこにはいつも通り、私の愛しい人の寝顔があった。

 彼は口元を緩め、規則的な呼吸を繰り返していた。

 体をよじることもない。

 どうやら、まだしっかりと眠っているらしい。

 私はしばらくの間、彼の寝顔を眺めていた。

 昔のことが思い出された。

 私が彼と寝屋を供にするようになった当初、彼の寝相はとても悪かった。

 私は何度もベッドの下へと突き落されたものだ。

 それが、いまや身動き一つせずに寝続けられるようになっているのだから、彼の適応力と
いうものには感心せずにはいられない。

 ……いや、ここまでになるには相応の努力もあったのだろう。

 そう考えると、私は彼がどれだけ私のことを気にかけているのかがわかるような気がして嬉
しかった。

 できることなら、いつまでもこの無防備な寝顔を眺めていたかったのだが、そうも言ってい
られない。
 
 そろそろ、彼を起こさなければ。

 私はゆっくりと彼のもとに顔を寄せる。

 そして、彼の頬を一舐めした。

「う……」

 一瞬の静寂の後、声が発せられ、まぶたが開かれた。
 
 目の焦点が定められ、私の姿を見据える。

 そして彼は微笑み、私に声をかけた。

「やあ、おはよう。タマ」

 いつも通りの朝、幸福な朝。
 
 こうして名前を呼んでもらえることが、私にとっては何よりも幸せだった。

 言葉を発することのできない私は、精一杯の想いを込めて、彼の言葉に鳴き声を返した。


 ――おはようございます。我が主よ。


 

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